マンガやアニメといった日本のサブカルチャーは、海外でも人気のコンテンツです。実は商業作品だけではなく、コスプレや同人誌を楽しむイベントも外国で多数開催されており、ファン活動の輪が世界に広まっています。
なかには、海外の二次創作から日本に逆輸入した結果、日本で人気になったコンテンツもあります。その代表例として、「~バース」という名称で知られる各種の特殊な世界観が挙げられるでしょう。
「~バース」というのは、海外でパラレル設定の総称として使われるユニバースという単語の一部分を指します。
- オメガバース
- Dom/Subユニバース
- ケーキバース
- アイスバース
- バタフライバース
特にオメガバースやDom/Subユニバースは書店でも見かけることが増えてきましたが、ケーキバースやアイスバース、バタフライバースといった派生した世界観については同人好きの間でもまだ認知が低い状態です。
好きな人はとことん好きな特殊設定について、それぞれの世界観の魅力をお伝えします。
目次
海外の二次創作から生まれた特殊設定オメガバースとは
「~バース」と呼ばれる特殊設定の走りは、英語圏の二次創作から逆輸入されたオメガバースです。
ルーツははっきりしていませんが、2005年のアメリカドラマ「スーパーナチュラル」から生まれた世界観ではないかと言われています。
目新しい世界観とアレンジがふくらませやすい設定が国内でも受け、同人に限らず商業の作品でも用いられるようになってきました。
後に様々な派生を生み出したオメガバースについて、基本を押さえておきましょう。
オメガバースの基礎知識
オメガバースの世界観をシンプルに表すのなら、両性具有のファンタジー世界に狼の群れ社会における階級意識を組み合わせたものと言えます。
オメガバースの世界観では、通常の性別の他にα(アルファ)・β(ベータ)・Ω(オメガ)という第二の性をそれぞれが持っており、生まれつきの性によってヒエラルキーが生まれています。
第二の性 | 特徴 |
---|---|
アルファ | 支配階級。身体機能・知能が高くなる傾向があり、エリートが多い。 |
オメガ | 中間層。一番数が多く、第二の性に影響されない。 |
ベータ | 下位層。アルファを誘引するフェロモンをもつ。行動が制限される発情期があることで、社会的に冷遇されやすい。 |
様々な脚色が加えやすい設定ということもあり、オメガバースを土台として様々なアレンジ作品や派生となる世界観が生まれました。
オメガバースから生まれた派生形
オメガバースからの派生を探すには、二次創作を探してみるのがベストです。実際に、同人作品を扱うサイトで「~バース」と検索してみると、たとえば次のようなキーワードがヒットするでしょう。
- Dom/Subユニバース
- ケーキバース
- アイスバース
- バタフライバース
上記の3つ以外にも「~バース」の世界観は見つかるでしょうし、今後もさらに増えていく可能性は十分あります。
派生とはいえ、オメガバースとはそれぞれ違う魅力のある個性的な設定になっています。同人活動の幅を広げる手がかりにもなりますので、それぞれの世界観をぜひ概要だけでも知ってみましょう。
オメガバースについてもっと詳しく知りたい方はこちらをチェックしてください。
オメガバースとは?BL特殊ジャンルをわかりやすく解説
Dom/Subユニバースとは:商業展開している注目の派生ジャンル
オメガバースから派生した世界観のうちでも、商業作品も出版されている注目度の高いジャンルがDom/Subユニバースです。
BLに限らず、男女の恋愛を表したNLや女性同士の恋愛を扱ったGLの二次創作でもDom/Subユニバースの設定を用いた作品の数々がWebサイトや同人誌で見られます。
Dom/Subユニバースの世界観について、詳しく見ていきましょう。
基本知識と魅力:本能に刻まれた主従の性
Dom/Subユニバースは海外の二次創作で生み出されたパラレル設定です。
サディズムとマゾヒズムという人間の性的な嗜好を「性別」という生まれつきの属性として取り入れたことで、主従の複雑な人間模様が好きな人を中心に一気に人気が高まりました。
Dom/Subユニバースの世界にはダイナミクスと呼ばれる第二の性があり、次の3種類に分かれています。
第二の性 | 特徴 |
---|---|
Dom | SMでいうSの立場。攻め側。 |
Sub | SMでいうMの立場。受け側。 |
Switch | DomとSubを両方持っていて切り替えできる。 |
DomはSubに対して「支配したい」という本能的な欲求を持っていますが、欲求の表れ方には個人差があります。暴力的な支配欲を示す人もいれば、「守りたい」「甘やかしたい」といった保護欲に近いかたちで支配を行う人もいます。
対になるSubもまた、Domに対して「支配されたい」という思いを抱えています。Domと同じように欲求の発露には個人差があり、相手に尽くすタイプの人もいれば、わがままに甘えるタイプの人もいます。
立場やしがらみを超えてDomとSubの本能で求め合う主従の絆がDom/Subユニバースの魅力です。
本能に負けずに相手を心で決めるという展開を採用している作品もありますが、いずれにせよ第二の性の設定がストーリー展開のスパイスになっています。
普段は強気なS気質に見える人が実はDomに対しては従順なSubというようにキャラクターのギャップを魅せる展開にも使いやすい世界観です。
単なるSMじゃない!DomとSubの信頼関係とは
一般的なSMを描いた作品よりも、Dom/Subユニバースでは互いの信頼関係に重きを置かれる傾向があります。
その理由は、DomとSubの間で信頼関係を築くためのPlay(プレイ)と呼ばれる行為にあります。
Playの最中、攻め側はKneel(跪け)やStrip(服を脱げ)のようにコマンドとよばれる命令を受け側に下します。
本来なら互いに気持ちがよいはずのPlayですが、Subが強い緊張やプレッシャーを感じているとSub Dropと呼ばれる現象を起こします。
Sub Dropとは、Subが精神のコントロールを失う一種のパニック発作です。Sub Dropを防ぐために、DomはSubに対して精神的なケアをきちんと行うことが必須とされています。
一方、Domとの信頼関係がきちんと成り立っていれば、相手の支配下に完全に入ることでSub space と呼ばれるふわふわした心地よい状態をSubは味わえるとされています。
攻め側が主導権を握っているように見えて、実は受け側が関係のコントロールを握っているのがDom/Subユニバースの面白いところです。
信頼できるパートナーを定めると、DomはSubにカラーと呼ばれる首輪を贈ります。この結婚のような行為をClaim(クレーム)といいます。
本能的に惹かれ合う性があるからこそ、単なる性の相性だけではなく、いかに互いの心を通わせるかがDom/Subユニバースの恋のキーポイントなのです。
代表的なDom/Subユニバースの商業作品
Dom/Subユニバースの特殊設定は二次創作だけではなく、商業作品でも扱われています。
代表作としては、山田ノノノ先生の「跪いて愛を問う」(新書館)が挙げられます。ただでさえ心が揺れ動く思春期の少年たちが、第二の性に翻弄されながら恋をする物語です。
その他、電子コミックでも少しずつDom/Subユニバースの扱いが増えてきました。
同じ世界観の作品を一度にまとめて読みたいのであれば、アンソロジーの「Dom/SubユニバースBL」(三交社)を手にとって見るとよいでしょう。
ケーキバースとは:韓国から逆輸入した大人向けの世界観
続いてケーキバースについてご紹介しましょう。韓国の二次創作から逆輸入した特殊設定で、大人向けに演出された独自の世界観が展開されています。
設定上ダークな内容になりやすいので、ケーキバースの作品を公開する際には他のバース作品以上に配慮が求められます。ケーキバースで好みの作品を見つけるために、ぜひ作家側のマナーについて知っておきましょう。
ケーキバースの基本知識と魅力:本能と理性の葛藤
ケーキバースの世界観では、ケーキとフォーク、その他というように人間が3分類できます。人口比で圧倒的に多いのは、その他に属する一般人です。
フォークとケーキは、捕食する側とされる側という関係です。ケーキバースの世界では、ケーキの人間はフォークの「ごちそう」なのです。
フォークの人間は後天的に味覚を失っており、「ケーキ」である人間だけが最高に甘くておいしいケーキのように感じられるという設定になっています。
味覚がない分、フォークはケーキに執着しやすく、「食べたい」という強い欲求を抱えることになります。一方、ケーキは自分が「ケーキである」と知る術がありません。
フォークはケーキに対して、拉致監禁や殺害を行う率が高く、ケーキバースの世界では「予備殺人鬼」と呼ばれています。
もっともフォークの人たちにはきちんと理性があり、ケーキを見つけただけで犯罪に至るケースは非常に珍しいとされています。
ケーキに対する食べたいという衝動と相手を大事にしたいという理性との間でせめぎ合うフォークの葛藤が魅力的に描かれた作品が多いのがケーキバースの特徴です。
ケーキバース作品を公開・視聴する前の注意点
ケーキバースは設定上、カニバリズム要素が強くなりやすい傾向があります。過激な描写が入ることも多いため、世界観自体を苦手とする読者もいます。
作品を発表する際には、ケーキバースの明記に加えて、R-18 やR-18Gタグを内容に応じて適宜付けることが望ましいでしょう。
「ケーキバースの表記をしてくれれば、細かい設定などは好きにいじってくれて構わない」という発言が発案者からはなされているため、同人作家によってはかなりマイルドな演出でケーキとフォークの関係を描いていることもあります。
「もしかしたら苦手かも」と感じる人も、タグや説明文を参考にしながら描写が穏やかなケーキバース作品を選んでいくと楽しみやすいでしょう。
アイスバースとは:悲劇の恋が好きな人におすすめの世界観
日本人の傾向として、ハッピーとは言いがたいメリーバッドエンドや悲劇の結末を迎える作品を好みやすいと言われています。
もし自分にもその傾向があると思うのであれば、アイスバースの世界観を取り入れた作品を一度読んでみることをおすすめします。
切ない終わり方が好きなのであれば、アイスバース作品はきっと好みにハマるでしょう。
アイスバースの基本知識と魅力:切ない恋の終わり
ケーキバースから派生した世界観であるアイスバースは、アイスとジュースと呼ばれる2つの種族がいる特殊設定になっています。
アイスとジュースは互いに惹かれ合うのですが、アイスバースの世界では2つの種族の恋は悲しい結末になる運命です。なぜなら、ジュースと結ばれるとアイスは3分以内に溶けて水に変わり、命を落としてしまうのです。
恋が叶うと同時に死ぬ定めのアイスですが、普通の人間よりも低い体温で見分けがつくため、自分がアイスであると自覚しています。アイスバースの彼らは恋に対して慎重になる傾向が強い一方で、一度恋を見つければ情熱的になることが多いのが特徴です。
命をかけたアイスの恋に対して、ジュースは何も知りません。自分がジュースであるとジュースは自覚する術がないため、アイスの死をもってジュースは自分の恋が相手を殺したことを知るのです。
「死んでもいいから、想いを伝えて結ばれたい」「愛する人に看取られたい」というアイスの恋の情熱と、愛する人の死に傷つき悔やむジュースの切ない心模様。
アイスバースの世界では恋は美しく残酷です。アイスとジュースが互いを愛するがゆえの悲劇がアイスバース作品の魅力と言えます。
公開数が少ないアイスバース作品を探すには?
作品を読んでみたいと思っても、残念ながらまだまだ作品数が少ないアイスバース。効率よく作品を探したいのであれば、同人作品を取り扱う各種サイトでアイスバースタグを検索してみるとよいでしょう。
アイスバース作品を発表している同人作家が見つかれば、同じ世界観を使って他作品も発表していることが多いため、好みの作品に出会いやすくなるでしょう。
ただそれでも自分が求めている作風のアイスバース作品と出会えない可能性もあるでしょう。その場合は、思い切って自分で創作を始めてしまうのも一つの方法です。
あなたのアイスバース作品を待っている読者と出会えるかもしれませんよ。
バタフライバースとは:複雑な関係を描き出すアダルトな世界観
ケーキバースのような大人向けの特殊設定が好きという人には、バタフライバースの世界観もおすすめです。
R-18やR-18Gの注意タグがつく作品がほとんどですが、ケーキバース以上に複雑な人間関係を楽しめる設定なので、バタフライバースの設定に想像力を刺激される作家が増えています。
バタフライバースのアダルトな世界の楽しみ方についてお伝えします。
バタフライバースの基本知識と魅力:4つ巴の関係
バタフライバースの世界観では、多数の普通の人間の中に「蝶」「蛾」「蜘蛛」「蜂」という属性の人がいるという設定になっています。
バタフライバース | 特徴 |
---|---|
蝶 | 美しいが、蜘蛛に食べられる。 |
蛾 | 蝶と見分けがつかない。蜘蛛が食べると猛毒になる。 |
蜘蛛 | 蝶あるいは蛾を食べる。 |
蜂 | 繁殖のために蜘蛛を利用し卵を植え付ける。 |
バタフライバースの人数比率としては、蝶>蛾>蜘蛛>蜂の順番です。4種類の人の存在は世間では知られておらず、蜘蛛による食人事件が起きてもただの猟奇殺人扱いになります。
上記の設定からわかるように、バタフライバースの場合は、カニバリズムだけではなく、蜂による性別を問わない妊娠も含むため、他のバース作品よりも読む人を選ぶ世界観になっています。
しかし、4つ巴の関係だからこその生存を賭けた恋や愛憎模様の複雑さは、他のバース作品では描けない独自の作風を生み出しており、バタフライバースが大好きというファンも増えています。
バタフライバースの最新情報の入手方法
バタフライバースの作品もまだ数は多くありません。創作を探すのであれば、同人作品を扱うサイトなどでバタフライバースのタグを検索してみましょう。
バタフライバースの最新情報を知りたいときは、ぜひ発案者のツイッターであるバタフライバース(@butterfly_verse)を調べてみるとよいでしょう。バタフライバースの公式設定にとどまらず、様々な作家が提出した世界観に基づくキャラクターがリツイートされています。
すでにバタフライバースの提出キャラクターは1000を超えています。それらの設定からインスピレーションを受けて、自分なりの創作を初めてみるのもよいでしょう。
まとめ
オメガバースから派生した「Dom/Subユニバース」「ケーキバース」「アイスバース」「バタフライバース」それぞれの概要と魅力についてお伝えしてきました。
読む人を選ぶ設定が多いからこそ濃いファンが多く、これから創作活動が盛り上がっていくジャンルだと言えるでしょう。
今回ご紹介した世界観はどれも自分なりのアレンジを加えて、ストーリー展開に活かすことができます。ひとつでも知らない設定があれば、ぜひ一度探して読んでみてくださいね。