はじめてマンガの同人誌を出すときの一番のハードルは何でしょうか?
普段からマンガやイラストを描いている人でも「印刷用の原稿の整え方がよくわからない!」と悩まれる人は多いようです。
最近では原稿をデジタルで仕上げることが多いので、印刷ならではのルールが把握しきれないまま製本後に失敗に気づくケースも増えています。
せっかくがんばって描いた原稿でも、本にしたときに思ったような印刷ができていなかったらもったいないですよね。
原稿のルールを守っていないと印刷所が製本を引き受けてくれないこともあるため、最悪の場合イベントに本を出せなくなってしまいます。
そういった悲劇をあらかじめ防げるように、同人誌を出すときの原稿作りのルールについて初心者にも分かりやすいようにまとめて解説します!
目次
同人誌の原稿を作るためのファーストステップ
自分の原稿を同人誌にしようと決めた時、必ず押さえておくべき点がいくつかあります。
どんな同人誌を作るにしても共通しているポイントなので、ぜひチェックしておきましょう。
本のサイズと用紙を決めよう
原稿を描く前に必ず決めておきたいのが本のサイズです。
通常、マンガ本であればB5かA5がよく使われます。小説を含む場合はA5が一般的です。
たとえば正方形のように特殊サイズの用紙でも製本できるので、自分のイメージに合ったサイズを選びましょう。
サイズが決まったら、使う用紙も決めましょう。よく使われる用紙としては、コート紙・マット紙・上質紙・アートポストがあります。
- コート紙:光沢があり、手触りがつるつる。カラーの発色に優れる。
- マット紙:表面にツヤ消しをしており、落ち着いた質感。印刷された文字が読みやすい。
- 上質紙:白色度が高く、白とスミのコントラスト表現に適している。
- アートポスト:厚みがあり、光沢感があって発色がよい。表紙によく使われる。
表紙や本文でどの紙を使うかを決めて、用紙の厚みも必ずチェックしておきましょう。
データはモノクロ?グレースケール?フルカラー?
同人誌のパーツは、表表紙・背表紙・裏表紙・本文に分かれています。それぞれのカラー設定をどうするかによって原稿の作り方も変わります。
フルカラーの場合は、Web用と印刷用ではカラー表現が異なる点に注意しましょう。
液晶画面で表示されるカラーはR(レッド)G(グリーン)B(ブルー)で構成されていますが、フルカラー印刷ではC(シアン)M(マゼンダ)Y(イエロー)K(クロ)の4色のインクで全ての色が表現されます。
また白と黒での表現もグレースケールとモノクロ二階調の2種類があります。
グレースケールは、濃さの違うグレーを白・黒と合わせて使うことで表現する方法です。モノクロ二階調は、グレーという色は使わずにトーン(網点)で濃淡を表現します。
- CMYKカラー原稿:350dpi
- グレースケール:350dpi、600dpi
- モノクロ二階調の原稿:600dpi、1200dpi
上記のように、カラー表現によってそれぞれ必要な解像度が異なりますので注意しましょう。
ページ数と背幅を決めよう
同人誌を作る場合、全体のページ数は重要なチェックポイントです。
同人誌の多くはホチキス留めの中綴じではなく、本の背を糊で接着する無線綴じという方法で製本します。
無線綴じの場合ページ数によって背幅が変わるため、表紙データを作るには背幅の計算が必要になります。背幅を計算するためには次のような計算を行います。
(表紙用紙の厚さ×2)+(本文用紙の厚さ×本分のページ数÷2)=背幅(mm)
計算が苦手な人は、印刷会社が提供している背幅計算ツールを使ってみてもよいでしょう。
印刷会社のマニュアルを熟読しよう
実は、原稿の作り方のルールは印刷会社によって細かな点に違いがあります。
断ち切りのための余白幅や入稿ファイルの形式や名前の付け方など、それぞれの印刷会社に合ったスタイルでお願いをすることで製本のトラブルが防げます。
そのため、同人誌作りに慣れてきたとしても新しい印刷会社にお願いする場合はマニュアルを熟読しておくことを強くおすすめします。
マニュアルの中には印刷・製本の専門用語が使われているため、とっつきにくいと思われるかもしれません。
よく使われる用語については次の章でくわしく説明していますので、ぜひ用語の意味をチェックしておきましょう。
原稿の印刷に関わる用語を押さえよう
同人誌の原稿作りについて調べていくと、印刷業界の専門用語がたくさん出てきます。
- 裁ち切り線(タチキリ)
- 仕上がり線
- 内枠
- トンボ(トリムマーク)
- ノンブル
最低限、上記の5つについては意味をきちんと知っておけば、印刷会社のマニュアルを理解しやすくなります。
それぞれの用語の意味を、まとめて解説します。
裁ち切り線とは
裁ち切り線とは、用紙を裁断する際の目安となる線です。
裁ち切り線がついていない原稿は入稿を受け付けていない印刷会社もあるので、裁ち切り線のルールについては要注意です。
印刷会社では実際の仕上がりサイズよりも大きなサイズの紙に印刷してから、まとめて既定のサイズに合わせて紙を裁断しています。
大事な絵や文字など切れては困るものは断ち切り線の枠の中に収まるように描く必要があります。一部が裁ち切りになるイラストやベタなどは、断ち切り線いっぱいまで描き込みましょう。
仕上がり線とは
裁ち切り線から数mm程度内側にあるのが仕上がり線です。
裁ち切り線を目安に少しだけ大きめに裁断した後、実際のサイズに裁断で仕上げるラインのことを指します。
裁断のときには多少の誤差が生じることがあるため、仕上り線の近くには重要な絵や文字は置かないようにしましょう。
内枠とは
原稿の真ん中にある大きな四角い枠を内枠と言います。基本枠とも呼ばれます。
製本されたときによくあるトラブルとして、セリフや絵の大事な部分が綴じの影響で見えにくくなってしまうことがあります。
内枠の中に描き込まれた内容であれば、同人誌として製本した後も読みやすくなります。
製本後の読みやすさを考えて、マンガを描くときにはセリフや大事なイラストを内枠の中に収めるような構図にしましょう。
トンボ(トリムマーク)とは
トンボとは、印刷や裁断の位置を明確にするためのしるしです。Adobe Illustratorではトリムマークという名称になっています。
四隅のマークをコーナートンボ、各辺の中心に位置するマークをセンタートンボあるいは十字トンボといいます。
特にイラストレーターで入稿する場合は必ずトンボをつけるように指示している印刷会社が多いので、事前にチェックしておきましょう。
裁ち切り線や仕上がり線をセットするときに、あわせてトンボもつける習慣をつけておくと安心ですね。
ノンブルとは
ノンブルとはページ番号のことです。ノンブルがあると読み手にとっても親切なので、ぜひ挿入しておきましょう。
必ず印刷に出る部分に記載する必要があるので、仕上がり線よりも内枠に近いところにノンブルを置くことが多いようです。
同人誌のノンブルは本文1ページ目から開始するのが一般的ですが、扉や目次を入れて2や3からページを始める方法もあります。
センタートンボを目安にすると、原稿のノンブルの位置が調整しやすくなるのでおすすめです。
印刷会社のマニュアルで必ずチェックすべきポイントとは
印刷の専門用語についてもある程度把握したところで、印刷会社の原稿マニュアルのうち絶対に確認しておくべき項目について解説していきましょう。
同人誌を作る前に、あらかじめ漏れのないように原稿づくりの必須項目をリストアップしておけば、迷わず描き進めていけるのでおすすめです。
断ち切りの幅は何cm?
断ち切り線と仕上がり線の間の幅を「断ち切り」といいます。「塗り足し」や「ドブ」という表現が使われることもあります。
断ち切りの幅は3mmが一般的ですが、印刷会社によって推奨している断ち切り幅が異なることがあります。
事前に原稿の断ち切り幅については、トンボなど目印の付け方も合わせてしっかりと確認しておきましょう。
ノンブルの付け方
ノンブルについては印刷会社によっては原稿への記載が必須とされているところがあります。
大量の原稿を扱う印刷会社にとっては、ノンブルがないとページの順番を整えるのが大変だからです。
どうしてもデザイン上ノンブルを入れたくない場合、無線綴じの同人誌であれば隠しノンブルという方法があります。
隠しノンブルを使う場合は、綴る側の仕上がり線近くにノンブルを配置しておきましょう。実際に製本すると、ノンブルが綴じに隠れてほぼ見えなくなります。
もし不明点があれば、事前に印刷会社に問い合わせておくとよいでしょう。
表紙の作成方法
同人誌の表紙データには表表紙、背表紙、裏表紙という3種類があります。
表紙データを作る場合は、断ち切りの幅と背幅を足したサイズでデータを作る必要があります。
たとえば、B5(182mm×257mm)の本で断ち切り幅が3mmと考えた場合は表紙データのサイズは次のように計算することになります。
横 [370(182×2+左右の塗り足し6mm)+背幅]×縦[ 263mm(257mm+上下塗り足し6mm)]
計算が苦手な人は、印刷会社のテンプレートをもとに背幅分を調整して使うとよいでしょう。
成人向けの同人誌の場合、表表紙にR-18の表記が必須です。裏表紙だけではダメなので、注意しておきましょう。
奥付の記載事項
二次創作・オリジナル問わず、同人誌には奥付をつけることで責任がどこにあるのかを明示するようになっています。
印刷会社によっては、奥付がない原稿だと印刷を断られることがあるので気をつけましょう。
同人誌の奥付に最低限記載しておくべき内容は次のとおりです。
- 発行者:サークルや描いた人の名前(ペンネームでも可)
- 連絡先:連絡のとれるメールアドレスやホームページなどのURL
- 発行日:本を販売しているイベントの開催日など
- 印刷をお願いした会社
- 同人誌のタイトル
連絡先としてTwitterなどSNSアカウントの名前を書く人もいますが、SNSの情報だけだと信頼性が足りないと判断されやすいので、同人活動に使うための専用メールアドレスを用意しておくと便利ですね。
カラーモードと入稿ファイル形式
同人誌の表紙などカラー原稿の場合、印刷用のカラー表現であるCMYK方式で描いておく必要があります。
液晶画面のRGB方式だと思っていたような色が表現できず違った色味になることがよくあるので、CMYK方式になっているかを確認した上で、自宅のプリンターなどで事前に原稿を印刷して色味がチェックできればベストです。
同人誌の入稿をする際、Adobe IllustratorのAiやPhotoshopのPSDなど、印刷会社によって対応できる原稿のファイル形式が異なります。
印刷会社が開けないファイル方式で原稿を提出してしまうと、基本的に差し戻しになってしまうので、同人誌の制作スケジュールに影響が出てしまいます。
対応している形式やファイル名の付け方など、同人誌の製本をお願いした印刷所のルールにそって入稿しましょう。
まとめ
マンガの同人誌原稿を作る際には、さまざまなルールがあるため最初はつい混乱してしまいがちです。
実際に同人誌を作ろうと決めた際には、今回の記事をまず参考にしながら、チェックもれがないようにひとつひとつ確認して原稿を仕上げていくのがおすすめです。
実際にやってみると印刷会社に確認しないと分からない疑問点や予期せぬトラブルが生じることがあるため、原稿作成には余裕を持って取り組むことをおすすめします。
ぜひ今回の記事を参考に、同人誌づくりを楽しんてくださいね!
原稿の作り方以外の同人誌印刷についてや印刷所の選び方についてはぜひこちらの記事を参考にしてください。
同人誌の印刷を徹底解説!初心者向け印刷所も5つご紹介